ワイルド・サイドを往く

”自分の”、”””””自分の”””””思った事を書く場所。好きな事や嫌いな事、コンテンツへの感想や思った事、気になってること、なんとなくもやもやしていること、果ては常人やそれに近い人が見るとウワァと思うであろうこと。人より文章の質や洞察力が劣ったものが出てもそれは仕方がないとして下手な背伸びはせずに書いていく。

【A Short Hike】ほのぼのエモーショナルアクションアドベンチャー【ほぼネタバレなし/感想】

 ゲーム画面を見かけて以来気にはなっていたけど、色々と忙しかったりタイミングが悪かったりして、ようやくSwitchで買ってプレイしてみた。

 

 まず目を惹いたのが、カラフルな色彩と、ピクセルシェーダのひと昔前風なゲーム画面だ。DS時代のグラフィックを思い出させる。こういうゲーム画面に夢中になっていた世代としては好みドンピシャだった。【親の車に乗ってどこかへ行く】というオープニングも相まって、どこかノスタルジーを感じる。この時点でもう心を動かされていた。

 

 個人的な好みだけでなく、ゲームとしてできることも多彩だ。

 

 まず言いたいのは移動の快適さ。主人公は鳥なので、走ったりジャンプしたりして島を探索するだけでなく、飛んだり滑空したりして自由に島を飛び回ることができる。有名なタイトルで分かりやすくシステムを説明するならば、『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』のパラセールのように滑空したり、『風ノ旅ビト』のスカーフのような回数制限付きで羽ばたくことでジャンプよりも上昇することができる。この飛行回数は黄金の羽根というアイテムを集めることで増やせる。また、羽のリソースは羽ばたく回数だけではなく、地上でのダッシュにも適用される。地上や空中での移動が自由かつ快適で、マリオシリーズと同じように『キャラクターを動かしているだけで楽しい』というのが素晴らしい。

 快適なムーブメントで気の向くまま島を走ったり飛んだりして、気になるものを見つけては調べてたり拾ったり。【探して、見つける】というシンプルながらも普遍的なゲームの楽しさがしっかり丁寧に作られていた。

 

 さらにアイテムでできることも豊富だ。釣り竿やスコップで魚を釣ったり、地面の気になる箇所をあちこち掘ったりすることができる。さらにツルハシやバケツなど、アイテムを拾うごとにできることが増える楽しさは、どうぶつの森ゼルダの伝説に通じるものがあった。

 

 NPCとの会話も、話しかければ話しかけるほど色々な反応を見せてくれるので積極的に話しかけたくなる。翻訳もしっかりしてて違和感を覚えるような瞬間は一度もなかった。

 ピクセルシェーダで描かれるデフォルメされたキャラクター達は背景も相まって暖かみのある魅力がある。一番目にする主人公のクレアがやっぱり良い。特にアイテムを入手したときにあのくりくりした目をして両手(というか翼)をスーッと掲げるあの動きがかわいくて好きだ。

 

 そして音楽も素晴らしい。場所や行動によって曲はフェードして切り替わったり止まったりするインタラクティブ性も技術的にポイント高いが、曲そのものがシンプルに良い。好き。癒し。アコースティックな音色を中心に、キャッチーで爽やかなメロディーが自分の行動に合わせて移り変わってくれる。

 特に好きだったのはボートに乗った時の曲『Boat Buds』だ。軽快なアコースティックギターをバックに奏でられるアコーディオン(多分)やトランペット(多分)のメロディーが爽快に気分を盛り上げてくれる。癒されながら高揚感を持たせてくる素晴らしい曲だった。そしてこの曲はボートの速度によって音が加わったり減ったりしてインタラクティブに変化してくれて、曲との一体感を感じながらボートで海を駆けることができる。島が舞台なのでボートでやる事と言えば外周を回ることなのだが、欲を言えばこの曲を聴きながらボートでしか行けない場所がもっと欲しかった。この曲で未知の場所を進んでいたかったなという思いが残った。それぐらい『Boat Buds』が好きだ。

 

 ゲームの本筋の目的はかなりシンプルで、詳細を省いて言えば【島の一番高い場所に登ってみる】だ。だからゲーム内で描かれる時間というのはごく短い間の出来事なのだが、その主目的の他にできることが豊富にあるので、プレイした自分もゲームの主人公のクレアも【短いのに濃密な一時】を過ごすことができる。

 

 『A Short Hike』をクリアして確信したのは、やっぱりゲームは【短い時間や小さな空間を遊びや楽しい要素で満たす】事が大事なのだと言うことだ。空間や時間の広さそのものではなく、ある一定時空間にどれだけの要素がたくさんあるのかが、ゲームとしての面白さに繋がっているんだと思う。

 ”要素がまばらに配置されたオープンワールドよりも、作り込まれた小さな空間の方がゲームとして楽しい”みたいなことをGMTKでも言っていた。これはゲーム内で描かれる時間にもある程度あてはめられるのだろうなと思う。

 ゲーム内の時空間の広さや長さに対して、それらの遊びや要素を消化するまでどれだけ時間がかかるのかが、ゲームの密度と言えるのかもしれない。

 

 このゲームのタイトルは『A Short Hike』だ。短いハイキング。このゲームをゆったり隅々まで堪能し尽くすなら、多分間違いなくゲーム内で描かれた時間よりも長い間遊ぶことができる。それは決して"short"などではない。にも拘わらず、ゲーム内の物語的な時間も、タイトルも、【遊べる要素はいっぱいあっても、これは短い一時のお話です】と伝えているのだ。これすなわち前述した【小さな空間、短い時間を、遊びや楽しい要素で満たしている】事そのものじゃあないのかと。こんだけ作り込んでてもそう言い切れる潔さはある種かっこよさすら覚えた。

 

 ゲームからは切っても切れない暴力や敵や戦いといった要素は一切なく、それ以外の楽しい要素を詰め込んだ密度の高いゲームは遊ぶだけで癒される。癒されると同時にすげぇなーって思いながら山頂にたどり着いた時、思わず演出や会話で涙目になってしまった。だからこの記事を書いた。

 

 ほのかなノスタルジーと、ゲームとしての根源的な楽しさを詰め込み、短くもエモーショナルな物語と演出でそれらを【濃密な一時の体験】へとまとめ上げた一作『A Short Hike』。最高のゲームだった。